2018年6月22日
✒︎ まず自分の足元を知ること。書籍で推す「新潟」
ー「CoCoLo西N +」がオープンして1ヶ月が過ぎました(※インタビュー時)。棚作りで工夫されたことなどありますか?
そだたべ:お店としては「新潟のクラフトマンシップ」というテーマがあるんですね。直訳すると「職人芸」かな。
ですから、例えば燕三条の洋食器だったり新潟漆器だったりといった新潟のものをお店に置き、ものだけではなくて物語や説得力をつけるために書籍を置きたいとのことでした。
棚が、高さ 2m80㎝ × 幅 3m80㎝の大きさで、その中でタイトルを増やして欲しいと要望がありまして。
そのために本の表紙を見せるだけではなくて棚差し(※背表紙を見せて棚に並べること)するとか、同じ本を何冊も置かないとか、いろんな要望があったんですが、今はだんだん新潟に関するものだったらオールオッケーみたいな形になってきていますね。
「CoCoLo西N +」の書籍売り場。新潟に関する多くの本が並ぶ。(写真提供・そだたべBooks)
ー新潟と言ったら「お米」や「お酒」がよく挙げられますが、それに留まらず市町村別に細かく分けていたり、内容としてもとてもマニアックな本が並んでいますよね。それを提案しようと思ったきっかけはなんでしょうか。
そだたべ:最初は、できればお店に並ぶ商品に関連したものをということだったんですが、棚があまりにも大きくて本の数が少なすぎてしまったんです。
そこで私の提案で、市町村別のものだったり、新潟の文化などを取り上げたものに広がっていきました。
市町村に関しては、自分がお客さんの立場でお店に行って、新潟の本で何を見るかなと思ったら、自分の生まれた所とかかなと思ったんです。地域別で揃えるにしても、上、中、下越(※新潟県の地域の分け方)じゃ広すぎかなと。
それは「クラフトマンシップ」というお店のテーマからはちょっとずれてるんですが、商品を置いて紹介や宣伝をするだけでは、お客さんは商品のできる経緯や地域についてのことが全然わからない。
だから、そこを本でカバーして欲しいというのがお店の方からの趣旨でもあったんです。
あと、週刊や月刊の雑誌はできるだけ取り扱わないようにしようと。近くに大きな書店さんが何軒かありますし、ネットでも探せますしね。
オーナーと私の意見でもあるんですが、情報誌系の書籍より、ずっと読み継がれるような本を置きたいという考えがありました。
売り場的に、「この本を目的に」というお客さんは皆無なんですよね。本の中で見つけたものに「おっ」と思ってもらえるだけでお店側としてはOKなんです。
新潟について何か発見してもらったり、応援したり、紹介したりという役割を書籍に担ってほしいという思いがあります。
私としては買ってほしいという気持ちもありますが(笑)
新しい新潟を作ること、お客様に新潟について見つけていただくこと、そして今まで埋もれているものを提示していくということがCoCoLo西館の根本にあるんです。
売り場としては、今もまだ模索中です。
そだたべ:ニュージーランドに2ヶ月ほどファームステイ(※海外の農園に滞在し、そこでの仕事や生活、語学などを学ぶ留学)をしたことがありまして。
それが初の海外で、そのときに自分自身が何かを持っていなければ外に出ても何もできないと思いました。
同じく感じたことは、自分が生まれ育ったところを大事にしていない人は外に行っても通用しないんじゃないかということ。
私はたまたま新潟に生まれて、新潟が好きだし、世界に行きたければそこを極めてから外に出た方が、世界に股をかけられるんじゃないかという思いがあります。
まず自分の足元を知る。その助けのひとつに書籍がなればいいなと。
今回の新潟駅の仕事もその一環ですね。
どんな年代の方でも自分の足元を知った方がいいと思っているんです。
自分が生まれたところは大事なので、それがないとアイデンティティもできない。
そこからどんどん新潟の外に出て行ってもらって、また帰ってきてもらったりと循環していけば、世の中良くなるんじゃないかなと思います。
✒︎「やってみたい」から始まった本屋業
ーそだたべさんは2015年頃から活動を始め、「そだたべBooks」として2016年3月に正式に開業されていますよね。現在では「CoCoLo西N +」ほか、新潟駅のぽんしゅ館、ピアBandaiのピカリ産直市場など複数の場所で本の選書を担当されています。
どのようなきっかけで本屋さんを始められたのでしょうか。
そだたべ:学生時代には本をたくさん読んでいたんですが、サラリーマンをしていた時は仕事が忙しくて読書からかなり遠ざかっていたんですね。
その後自営業に就いて、ある程度自由な時間ができたので読書をまた始めて、そのうち1人で読書するのがちょっと物足りなくなってしまった。
読書会というのがあるらしいと知って、ニイガタ読書会さんに行っていろいろな方と喋っていく中で、一箱古本市というのがあると知ったんです。
ちょうど知り合いの方が一箱古本市に出しているのをSNSで見たのもあって、自分もやってみたら面白かったんですよ。
もうちょっとやってみたいなと思って、仕事の関係で繋がりのあった農産物直売場の方に、冬場で商品があまりないので本を出してもいいですかと話したら「どうぞ」と言われて。
それで売り場の野菜の中に、自分が読んだものとか、知り合いの方からいただいた農業や食の本を置いてみたら思いのほか売れて、お客さんからも好評だったんです。
本が売れてなくなってしまったので、古本を買い取ってまた売るには古物商許可証がいるぞとなって、許可証を取ったんですね。
元々は屋号みたいなものはなくて、「食と農の本屋さん」という名前をつけていたんですが、伝票や売上の処理の関係もあってちゃんと名前をつけてくださいということで、「育てよう」「食べよう」の上だけ取って「そだたべbooks」とつけました。
ー一箱古本市からの行動力がすごいですね。
そだたべ:なんでしょうね、それまでは結構我慢していたというか、人に合わせて生きて来て、本心からやりたいことをしてこなかったんですね。
その頃ちょうど色々考える時期でもあって、とにかくやってみたいなと思って。それで自分の生活がおかしくなるわけでもないですし、好きなものにかける時間がそのまま仕事になったら素敵だなと。
そういうわけで、行動力があるというより、やりたいからやってるだけなんですよ。多分皆さんにも大なり小なりそういう気持ちがあると思うんですけど、日々の何かに追われてしまっているということがあるんじゃないでしょうか。
ー「育てよう」「食べよう」というテーマは最初から決まっていたんですか?
そだたべ:よく聞かれるんですよね、「そだたべ」は言いにくいし、おかしい名前なんで(笑)
最初はそうだったんですよ。「育てよう」は、苗を作っていたので、それを育てるという意味で。「食べよう」はそのまま「食べる」で。
そのうち、「育てよう」が「子供を育てる」になったり、今では「新潟」もテーマになって来たり、最初の頃からどんどん変わって来てるんです。
だから名前を変えようと思ってるんですが、「そだたべ」というのが浸透しちゃってるんですよね。
ー現在は多くの書籍を扱っておられますが、元々そだたべさんは絵本を多く扱っていますよね。
そだたべ:甥っ子と姪っ子がいて、毎年お年玉と本をあげるんですね。そのときに絵本を読んで、面白いなと思ったのがきっかけです。
大人が読んでも面白いというか、大人こそ読んだ方がいい絵本もいっぱいあるんですよね。
話は少しずれますが、本を扱う仕事をやっている中で、色々な本屋さんや出版社の方とお話しする機会があります。
皆さん口を揃えて「厳しい」「本は売れないよ」とおっしゃる。
実際自分のことを考えてみても、本を読む時間が減って来ています。
その代わり何が増えているかといったらネットですよね。スマホでSNSを見たりする時間が増えているじゃないですか。
悲しいけど、本は別にいらないよなと思った時があって。
でも本屋やりたいし、本を残したいし、じゃあどうすればいいんだろうと考えました。
そのときに、本が必要とされているのは紙そのものにあるんじゃないかと思ったんです。
折ったり書いたり切ったり、嫌がる人もいるんですけど、そういうことをやるのも本の役目だと私は思っていて。
特に子供は絵本でそういうことをやりたがると思うんですけど、園や図書館だとストップせざるを得ないじゃないですか。
だから本屋さんで絵本を買ってもらうのを手助けできたらいいなと思っています。
ーそだたべさんが作る売り場では、『おむすびちゃん』という絵本を猛プッシュしていますよね。(『おむすびちゃん』あだちあさみ著・イラスト 新潟日報事業社)
そだたべさんが『おむすびちゃん』を売りたいために「200冊買い切ります!」「私の人生をかけて、世界一、この本を売ります」と出版社に直接コンタクトを取ったという話を聞いて、そのあまりの熱さに感動しました。
そだたべ:えええ。…まあ、「熱い」って言われてたからなあ。
売れるって確信があったんですよ。今はもう150冊くらい売ってますね。
ー本を読んで感動して、出版社の方に掛け合いに行くってなかなかないと思うのですが。
そだたべ:『おむすびちゃん』を見つけて、すごいこの本いいなと思ったんですよ。子供たちが読んで一番反応が良かったんですね。
読むだけじゃなくてそのあとの行動にも繋がっていく。にぎにぎしたいとか。これは本物だと思って。
私そだたべの「食べよう」に即してますし、ピアBandaiに売り場もあったので、これは私が売らなければ誰が売るんだろうと思っちゃって。
その頃古本しか扱ってなかったんですよ。でも、業界的には新しいものを入れていかないとどんどん廃れるばかりだなという思いがあって、新刊を売りたかったんですね。
でも私には店はない。だから、何かひとつ特化して一冊を売りたいと探していたときに出会ったのが『おむすびちゃん』だったんですね。これだ、来たなと。
ー新刊を売るには、取次(※本の問屋さん)を挟むというのが書店の販売方法ですよね。取次を挟むのではなく出版社の方に直接行かれたのはどうしてですか?
そだたべ:私も最初は何もわからなかったのでまず調べたら、新刊を売る本屋をやるのには取次を通さなければいけなくて、それには莫大な保証金がかかるんですね。それは無理だなと。
それなら直接出版社から買い切ればいいんじゃないかと思いまして。
『おむすびちゃん』の出版社は新潟日報事業社さんで地元ですから、自分で取りに行けばいいし、委託じゃなくて買い切りだから簡単にできるだろうと思ったんですよ。
それで新潟日報事業社さんに行ったら、これまでのお取引もないですし、私たちの商品をお預けするのは検討をさせて下さいというお話だったんです。ああその通りだなと思って。
そのあと販売部の部長さんがピアBandaiの売り場を見に来て下さって、了承してくれたんです。
でもその代わり、100冊とか200冊とかそんなに無理しないで、売れたらまたどんどんやればいいんだから、とりあえず50冊どうぞというので始まったんですね。
ーそだたべさんの思い切りがすごいですね…
そだたべ:いやいや、簡単に考えてたんですよね。
あとこれは自分の俗なところなんですけど、出版社や新聞社の方と喋りたかったんですね。お客さんという立場ではなく、内部に入って対等に喋ってみたかったという。
ー本好きとしてはその気持ち、わかります!